東京・三鷹市議会で3月、「再生土」の利用を中止するよう求める意見書が提出され、賛成多数で原案可決されていたことが分かった。
現在、東京電力福島第一原発事故後の除染で出た「除染土」は、福島県双葉、大熊両町の中間貯蔵施設に保管されているが、国は2045年3月までの「県外最終処分」に向けて、放射性物質の濃度が低い再生土を全国の公共事業などで再生利用する方針を示している。
意見書を提出したのは無所属の議員だが、「30年以内に福島県外での最終処分を完了する」と政策集に掲げている立憲民主党の議員も全員賛成に回った。
福島第一原発で作られていた電気は東京などの首都圏に送られていた。一連の問題は決して、福島県だけの問題ではない。意見書を出した理由や賛成に回った動機を知るため、私は複数の議員の活動現場などを訪れて話を聞いた。
そこで分かったことは、科学的な安全性に対する見解の相違だけでなく、「中間貯蔵施設が福島のどこの自治体にあるのかわからない」といった基本的な知識の欠如だった。

立憲民主などが意見書に賛成
「環境省は原発事故後の除染で生じた除去土壌を復興再生に利用するための省令改正案の意見募集をしたが、実に12万8000通もの意見が寄せられた。多くの国民が放射能汚染土の再利用に対し不安を持ち、汚染土の拡散はすべきではないと感じていることを示している」
3月27日、三鷹市議会で開かれた意見書決議等審議。グリーンのジャケットとストールを着用した野村羊子議員(無所属)は、マイクの前で淀みなく語った。
野村議員が、賛成者の紫野明日香議員(共産)と提出した「意見書(案)第14号」には、「『放射能汚染土』の再利用の中止・撤回を求める意見書」と書かれてあった。
意見書とは、地方公共団体の公益に関することに関して議会が意思を意見としてまとめた文書のことで、多くの場合は会期の始めや会期末に出され、質疑・討論・採決の後、議長名で国会や関係行政庁に提出される。
野村議員は意見書案に目を落としながら、「人体に悪影響を与える放射性物質は集中管理が原則」「汚染土を掘り返し、トラックに積載し、運搬し、工事現場で投入する。その作業の全ての段階でちり、ほこりと一緒に放射性物質が拡散する」と言及。
災害などで放射性物質拡散の危険性があるとし、「問題が山積みのまま丁寧な住民説明もなく、放射性汚染土の再利用、拡散を推し進めることは到底許されるものではなく、未来の世代にツケを残すものである」と訴えた。
この意見書案に対しては、佐々木和代議員(公明)が反対討論し、再生土の安全性や再生利用の必要性などを発信する体制整備こそが「未来の世代にツケを残さない取り組み」と主張。意見書は「いたずらに風評被害や不安を招きかねない」と反対したが、結局13対12の賛成多数で原案可決した。
賛成は、立憲、共産、れいわ、維新など。反対は、自民、公明、都ファ。同市議会事務局によると、意見書は3月31日、首相や環境相などに宛てて送付された。
福島県議会の渡辺康平議員(自民)は取材に、「全国でも今後、同様の意見書が出され、原案可決する動きが出てくるかもしれない。そうなると、ますます再生利用の理解が進まなくなる」と危機感を示した。

中間貯蔵施設、「富岡、大熊じゃないの?」
福島第一原発で発電された電力の恩恵を受けてきた東京。この議論は「ある地方の小さな問題」ではなく、「自分のこと」として情報を収集し、考えなければならない問題でもある。
私は4月8日午前7時半前、多くの通勤客が行き交うJR三鷹駅南口付近で野村議員に声をかけた。「意見書の件で伺いたいことがある」と言うと、真摯に対応してくれた。
冒頭、意見書案を提出した理由について聞くと、野村議員は「放射能で汚染されたものは人に害を与える可能性があるもの。拡散することは基本的にせず、公害の原則として毒物は集めて集中管理する。集中管理という状態にあるわけだから動かしてはいけない」と語った。
では、福島に置いておくことがベストなのか。こう問うと、「どう補償するのかというのが必要」としつつ、「基本的にはそうせざるを得ないのではないか。チェルノブイリのことを思ってもね」と話した。
野村議員はさらに言葉を続け、「『あそこ』の地主さんたちに使用料をずっと払い続けるとか、単に買い上げるのではなく、むしろずっとその方々に補償し続けるほうが妥当。丁寧な説明と交渉は必要で、原則から考えれば今のところに置いておいた方がいい」と述べた。
私は「あそこ」という言葉が引っ掛かり、中間貯蔵施設が立地する福島県内の自治体名を聞いた。すると、野村議員はこう答えた。「えっと、富岡じゃないの?富岡、大熊じゃないの?」
先祖代々の土地や家を受け継いできた人々
中間貯蔵施設があるのは、双葉町と大熊町で、富岡町ではない。一連の問題では、科学的な安全性への理解のほかに、地元の思いを知ることも非常に重要だ。
地元の思いとはどういうものなのか。野村議員が名前を挙げなかった双葉町の伊沢史朗町長は「福島環境再生100人の記憶」の中で、「中間貯蔵施設の受け入れ決定が震災後の取り組みで一番大変だった」と語っている。
避難生活が継続する中、 追い打ちをかけるように先祖伝来の土地、家屋、財産まで手放さなくてはならなくなったとし、「町民の悲しみと苦しみに満ちた表情は今でも忘れることはできない。 国民の皆さんには、犠牲になった人たちがいるからこそ復興が進んでいることをご理解いただきたい」と述べている。
伊沢町長と共に同施設の受け入れを決めた元大熊町長・渡辺利綱さんも今年2月、私のインタビューに「(国に)『原発事故で使い物にならない土地を買ってやる』といった高飛車な目線は絶対だめですよ』と伝えた。我々は好きで土地を提供しようとしているわけではなく、非常時だから協力した」と語った。
土地を提供すると決心し、いざ紙にハンコを押そうとしたら最後の最後で手が震えて押せなかったり、「戦時中でも『土地と家を手放して出ていけ』なんて言われたことはなかった」と嘆いたりする町民がいたことも明かしてくれた。
地元住民らは「30年後に土地が帰ってくる」という約束を信じ、言葉では言い表せないような葛藤の中で土地を提供することを決めた。決して「お金」で解決するものではない。こうした事実や地元の悲痛な声を県外に伝えきれていない国やメディアの責任も大きい。

「放射能汚染土」は「正しい言い方」?
私は、意見書に書かれた「放射能汚染土」という言葉についても聞いた。野村議員は「正しい言い方だと思っている」ときっぱり答えた。
一方、再生利用の現場で最も被ばくするとされているのは盛土上(中央)の作業員で、追加被ばく線量は「年0.93ミリシーベルト」と計算されている。周辺住民に関しては「年0.16ミリシーベルト」で、公衆被ばくの線量限度「年1ミリシーベルト」とは程遠い。
再生利用が科学的に安全とされている以上、危険や不安を煽るような言葉は「福島の特別視」に繋がり、現地の人々への差別や偏見を生む。このことをまとめた三菱総合研究所の調査結果もあわせて伝えると、野村議員はこう語った。
「だから放射能で汚染するということについて、政府がスティグマを貼り付けているという問題がある。あの当時に排除とか差別とかが起きたじゃないですか。それに対して有効な手立てを出さない、そういう対策をしなかった問題というのは社会としてものすごくある」
さらに、意見書の中で再生利用の中止・撤回を求める理由の一つとして挙げていたパブリックコメントについても聞いた。
野村議員は、同省に「12万8000通もの意見が寄せられた」とし、「多くの国民が放射能汚染土の再利用に対し不安をもち、汚染土の拡散はすべきではないと感じていることを示している」と三鷹市議会で語った。
だが、議会の意見書決議等審議が開かれた翌日の3月28日、提出された意見のうち96%が「一字一句完全に一致した意見だった」ことが、浅尾慶一郎環境相の記者会見で明らかになった。
具体的には、約20万件の意見が寄せられたが、一字一句完全に一致した意見を1件としてまとめると、意見数は総数の4%(約8000件)になったという。同一の名前で意見を1000件以上出した例もあり、組織的な干渉があった可能性がある。
野村議員が意見書案を提出したのは記者会見前日ではあるが、このことについて聞くと、「9割が同じコメントだったかどうかは私は知らない。確認していない。全部公開されていない」と述べた。
そして、「ちゃんと事実を知ったら、放射能で汚染されていても大丈夫ですよと言われても、将来的にそこに住んでいる人たちにとっては脅威になりかねない。自分の近くに来ると思ったら『NO』と言いたいと思う」と語った。
ここまでで、話を聞いてから10分ほどが経っていた。野村議員はこのほか、再生利用が危険だと思う理由について、「盛土はいつか崩れるという危険性がある」「14年前に降り積もった状態に(放射性物質を)さらに加算させることになる。そこは本当に将来に禍根を残す」と話していた。
最後に、意見書が賛成多数で原案可決されたことへの感想を尋ねると、野村議員は私の目を見ながら淡々と答えた。「通ってよかったなと思いますよ。非常に僅差でしたから」
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原発事故により大きな被害を受けた福島と情報の向き合い方について取り上げる「ルポ『福島リアル』」。次回は、三鷹市議会で原案可決された「『放射能汚染土』の再利用の中止・撤回を求める意見書」に賛成した立憲民主党の議員らへの取材結果を報告する。
※ハフポスト日本版はこれまで、再生利用される土も含めて一括して「除染土」と表記してきましたが、一連の問題に対する理解の妨げになっている可能性があることから、公共事業などに再生利用される土(1キロあたり8000ベクレル以下)については今後、「再生土」と表記します。